安本義正氏の「ネパールにおける赤米の今日事情」を読んでいるうちに,どこかに赤い米という記事があったことを思い出した。私の持っている『ビル・ニガントゥ』の訳文である。ビル・ニガントゥは着色図1頁解説1頁の百科事典で、これについては会報21号(1977)−30号(1978)に紹介したので省く。しかし私しか情報をもっていないので、持ち腐れにならぬよう、この機会に稲についての部分だけみんな紹介しておく。この記事はネパール語の部分をラマ・ドザ・シュレスタ氏が英訳し、それを私が和訳したものである。
稲についての記事がどこにあるかは、図のコピーをめくってみつけた。図はかなり写実的で、稲であることは容易にわかる。私のコピーはモノクロムなので、籾の色については情報不足だが、単色のものと濃色のものがある。図は13枚あり、1図に3種類描かれたものが1枚あった。記述はごく短かく、種類が違ってもあまり変わり映えはしない。これらの記述は古典からの抜き書きで、しかも薬効についてのことがほとんどであり、植物学的あるいは形態的記述はない。だから植物の名前の異なる13種類が記されていても。どこがどのように違うのかは、図以外には判断材料がない。こういうスタイルはこの地域の古典の定石で、原典を尊重して著者個人の意見は極力避けるのが正統だという。アユルベーダに特有の語の用法があるらしいが、これは英訳者にも和訳者にも下地がないのでわからず、いい加減な翻訳とならざるを得なかった。3体液は風、胆汁、粘液と表現しておく。「咀嚼すると」は"when digested"と英訳された部分である。句読点は原文にないため、和訳の際適当につけたもので、原文の文章としてのまとまりを示すものではない。図番号の直後の名前は、見出しに用いられているサンスクリット名であるという。しかしネパール名が用いられているところもある。[カイヤ][マダン][ババ][ラジ]は引用された古典名である。そのうち最も頻繁に引用される[ラジ]は、1,200年代にカシミールで書かれた薬物辞典Rajanighantuである。カシミールで出た本がネパールの米にこんなに当てはまるということが、ちょっと首をひねるところだが、もともと米は暑い地域から持ち込まれたものだから、普遍性があってもよいだろう。 (ネパ)(ネワ) はネパール名、ネワール名である。他の言語の名前も記されているが省略する。この稲に限らず、ビル・ニガントゥの図なり原文なりを参照したい方は、ご連絡くだされば相談に応じます。(編集部注:現在はご相談は受け付けておりません。)
[日本ネパール協会会報 (136) : 6-7 (1996) ; 図(pp.224-6、難波恒雄撮影)は本書収載にあたり加えたもの]
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