野草の新名の抽出は意外と厄介でした。新名というものは著者がみんなに使ってもらいたくて発表するものですから、誰にもすぐわかるように記されていると思ったらさにあらずで、ずい分わかりにくい表記の仕方をする著者もあるものだということを知りました。他誌では、わざと目立たないように発表したと思われる例もあります。はっきりそれと表示してない名前は、前後の文章から判断するほかはありませんが、それでもそこが初出であるか否か、判断できないものもありました。以下に野草に現れた新和名のいろいろな提示の仕方を列記します。−は新和名、−−は既存の和名、==は学名、〜はその他の文字列です。
- −(新称)
- −(仮称)
- −と呼び==の学名を用意する
- −と呼ぼうと思う
- −と呼んで区別したい
- −と呼んだらよかろう
- −などと呼ぶつもりはないが……
- −は〜の新和名である
- 上記和名はまだ発表していなかったように思われるのでここに記しておく
- −としたほうがよかったかもしれない
- 仮に−としておく
- −としておこう
- −としてもよい
- もしこういう形があるなら−と呼ぶベきである。
- 1つの発表文中で他は(新称)と付記してあるのにこれにはその付記がなく、文章を読むと新名と分るもの
以上はとにかくここが初出だと判断できるものです。以下は初出か否かわからない表現です。
- −と呼べよう
- −と呼ぶ
- −と呼んできた
- −?と云う
- −と呼ばれるものである
- −と呼ぶべきものである
- −の名があるが
- −に当てて差支えないと思う
- 植物名が提示されているのみで、説明記事にも新名であることをうかがわせる記述がないもの。(非常に多いようだ)
- 〜標本室に−(新称)と記した標本がある
- −(新称)と記した標本がある。これは−−と同じものである。(これは 結局新称とか新名といった植物名を論じたものではなく、特定の標本なり個体なりの同定について論じたものです。25も同じ)
というわけで、どうもかなり拾いそこないがありそうです。とくに24のような表現では、とてもわかりません。新名提示の意志を著者がはっきり記していない場合には、とりあげる必要はないとの意見もありますが、そういう判断は難しい場合があるし、そこに初めてその名がでているということにかわりはないので、なんでも拾うことにしました。
野草は同人誌であり、形式にとらわれず各人勝手なことを書けるというところに醍醐味があるのですから、学術誌のように客観性だとか合法性だとかを気にする必要は全くないと思います。ただ自然観察の結果を他人に伝えるという基本理念はあるのですから、事実に基づく発表や意見でありさえすればよいでしょう。しかし自分の書いたり言ったりしたことが、他人に違った意味で受け取られることは不本意でしょう。新名の発表は誰もがやることではありませんが、これに限らず事実を伝えるという観点からは、どんな文章でも表現に十分注意しなければならないと思いました。
一方、正誤表によって過去の発表内容を変えてしまう例が見られました。たとえば野草16巻131号(1950年)4頁にケタガネソウが新称されていますが、16巻134号(1950年)8頁の正誤表でウラジロタガネソウに訂正されています。この名は16巻134号(1950年)8頁の正誤表でさらにウラゲタガネソウに訂正されています。これは単なる誤植や脱落の正誤とは言い難く、意見を変えたという方がよいでしょう。したがって正誤表で訂正するにはふさわしくない事例と考えます。同じ例は他誌にもみられます。こういう場合には、その都度新見解を発表すべきでした。実際、「先に発表した−の名は、〜の理由で〜〜に変更する」という記事もあるのですから、正誤表を無理に使うことはなかったはずです。
ともあれ自分の言いたいことを他人にそのとおりわからせることは、思いの外むずかしいものだということをあらためて感じました。
[野草54(425):63-64(1987)]
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