Sudden alternation of a plant community
1984年10月5日朝8時のNHKTVワイドニュース(東京版)で興味ある現象が放映された。東京の二子玉川の川原に昨年まで存在したオギの大群落が突然消失し、今年はセイバンモロコシの群落となったというものである。この現象は現地に住む飯島春子氏が気付いてNHKに通報し、都立鷺宮高校の大川ち津る氏が現場視察と聞取りを行って確かめたうえ、植物学的に重要な現象であることをその場で記者に伝えたのだが、放映の際には「去年まではススキでお月見ができたのに、今年はセイバンモロコシとは…」というニュースになっていた。
このできごとには2つの問題が含まれている。だいたい生態学でいう遷移という現象は、次第に移り変わっていくものと私は理解しており、去年と今年で大面積の群落がすっかり入れ換わるなどということは、山火事とか洪水とか、あるいはササの開花のような異変でもなければ起こらないと思っていた。通報者は現地に永年住んでおり、目の前がオギ(本人はススキと思っていたが、近くに残っている株や川原での生育状況を聞き取った結果オギと判断された)の原であることを常識としていた。この原は毎年夏に花火大会の桟敷席を作るために刈り取りが行われるが、秋にはいつもオギの穂がなびいていた。そして昨年は台風も来なかったため、川原が冠水することもなかった。このように環境条件に特別な異常がないのに、前年まで優勢であった生態系が突然消えたことが第一の問題である。
第二の問題は、その後にセイバンモロコシが多量に発生したことである。通報者は「多摩川の自然をとりもどす会」の主宰者であり、自然についての関心は高いが、記録をつけているわけではない。オギの群落が認識されていたということは、セイバンモロコシはあっても気になるような量ではなかったと思われる。今年それが多量に発生したということは、前から相当な量のそれが存在していたが、花をつけるまでに至らなかったのか、多量の種子が埋没していて、それが一斉に生長したかのいずれかだろう。後者の場合はありそうに思えない。前者はあり得るが、それならなぜ昨年初めて現れたのか?
2つのうちどちらかといえば、第一の問題の方が重大に思える。常識的でないからである。たとえば土地測量や税務調査のための空中写真でも偶然に撮影されていれば、現在の状況を量的に比較できる。そのためには、誰かが現在の状況を量的に記録しておかねばならない。こういう現象は、毎年同じ所を量的に調査記録していれば掴むことができるのだが、起こるとは思われない現象を期待して調査を続ける人はいないだろうから、今回のように地域在住者に期待するほかはない。なお現場の植生は多摩川流域現存植生図(とうきゅう環境浄化財団1977年)に記録図示されているので、比較検討は可能と思われる。
[植物研究雑誌60(4):119(1985)]
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