新聞の写真を拡大鏡でみると、元の絵はなくなってしまい、見えるのは大小の点々だけである。植物の分布図を作るとき、産地の経緯度がわからなくて困るので、位置座標のついた地名索引を作った。5万分の1、2万5千分の1、20万分の1の地図の地名を全部拾ってある。日本全土をおおう地図は、たぶんこの3種類に尽きるだろう。それを使って東京はどこかと調べたのだが、どこにもない。そういえば東京都内で、「東京」という地名はきいたことがない。東京はあるにきまっているのだが、ココというものがないのだ。東京の外から見ると東京は存在するが、東京の中に入ると東京はなくなってしまう。どこがその境目なのだろう?SFでそんなはなしを読んだような気がする。
「里程原標のあるところが東京だ」といわれても、あそこは日本橋である。「東京駅のあるところが東京だ」というので地図を見ると、そこには「とうきょう」と書いてある。東京ではないのだ。「東京」のついた地名や地物は、東京港、東京国際空港、東京ゴルフ場、東京変電所といくらもあるのだが、本家の東京ではない。これが渋谷となると、本家の渋谷はなくても、渋谷1丁目のような直系がまだ地図に残っている。だが東京には東京1丁目さえない。東京は消失したのだ。調べた地図の中で1番古いのは明治時代の5万分の1図だから、もうそのときには東京はなくなっていたことになる。「地名を守る会」あたりが大騒ぎしてよさそうなのに、誰も騒がない。あまり昔に消失したので、なくなったことに気付かないのだろう。それともはじめから無かったのかも知れない。しつこく探したら東京があった。ただし長野県の鬼無里村で、「とうきょう」ではなく「ひがしきょう」だった。
[週刊小説25(12):73(1996)]
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