Botanical activities of the late Dr. Hiroshi Hara from his diaries in 1927, 1928 and 1930
原寛博士の学生時代の日記が残されている。現在みつかっているのは大正12、14年、昭和2、3、5年と断片的であるが、博士の几帳面な性格を反映して、当用日記に1-2行ではあるが、毎日ほとんど欠かさず記されている。昭和に入ってからは、植物研究に生活の方向づけが決まってきたことがうかがわれ、ほとんど連日「勉強した」、「標本を整理した」という言葉でしめくくられている。記事は事実の記述に限定され、意見や感想はみられず、「じつに嬉しかった」、「痛快であった」という記述がたまにあるのみである。前者は自己の植物の新発見について用いられ、後者は学校の成績で1番をとったときに用いられている。大学入学以前に、すでに大人を相手に植物の指導をしていたことがわかる。博士は当時植物同好会には所属しておらず、川村清一博士の自宅で教示をうける以外は独力でその水準に達していたことは、若くして志をたてて研究に集中した勉学の成果を思わせる。採集行はきわめて機動的で、交通機関を有効に利用して、今日と同様なスピードで精力的に移動しているのが目についた。また年末にはその年の所感と採集行の一覧表および自己の重要な発見植物の表が作られている。大学時代の日高山脈調査の記録などは、残念ながらみつかっていない。
植物研究以外に博士は学生時代にはいろいろなゲームやスポーツを楽しみ、いずれも好成績を収めていたことが随所に記されている。スポーツとしてはテニスが得意だったほか、ピンポンもこなしている。相撲興行の結果は必ず日記に記されており、毎日観戦にでかけていることも多い。ゲームでは麻雀は得意とするところで、そのほか花札、将棋、五目並べ、トランプなどもしばしば登場する。
以下は日記から植物研究に関するトピック的な部分を抜粋したものである。公表を許された原一二美夫人に感謝の意を表する。
昭和2年(1927)16歳
4月07日 明日より中等科第5学年に入ることになった。(注:東京高等師範学校附属中学校より学習院へ転校。) 9月06日 今年およびその以前に採集したる腊葉の整理を行ふ。 9月13日 今日で略腊葉整理ができ、新たにこしらへた腊葉450枚に達した。 [植物研究雑誌63(3):70(1988)]
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9月27日 今日より菌類採集を決心す。 10月05日 今日より学習院内植物調査を決意す。(注:後、1931年に博士の最初の論文、学習院構内植物目録、学習院時報第17号附録として発表された。) 10月15日 5時夕食をすまし、松平の家へ行き、共に川村清一先生の宅を訪ひ、10時過迄お話をきいた。僕の持参した高山植物(コゴメグサ属)は未だ和名なく、新種かどうか調べていただくこととした。11時帰宅。(注:川村博士との最初の出会いと思われる。以後頻々と訪問し、教えを乞うている。) 10月03日 飯沼慾斎著増訂草木図説を買う。 11月09日 7時半起床。8時45分家を出て松平の家へ寄り、共に川村先生の邸へ行き、菌の鑑定を顧ひ、昼食を頂戴し、午後4時半帰宅。
年末所感 此年の秋は僕の植物生活に一大変化を与へ、先づ植物学の大家川村清一氏と交じって凡ての植物、草、木、隠花植物の凡てを知るの必要を感じ、以後あらゆる植物を採集することに努め、殊に菌類を採取せり。然して来年に於ては腊葉集の内容を充実せしめ、以て後日の参考とせんとす。 昭和2年(1927)植物採集旅行表
4月29日 逗子、神武寺方面。30日逗子、七曲方面。 6月04日 軽井沢へ出発。5日愛宕山、雲場池方面。11日軽井沢へ出発。12日離山方面。13日矢ヶ崎山方面。14日碓水、一ノ字山方面。 7月15日 軽井沢へ出発。18日小瀬方面。20日押出岩。23日信州大町−葛温泉。24日葛−東沢発電所。25日東沢−烏帽子小屋。26日烏帽子−蓮華小屋。27蓮華−槍、殺生小屋。28日槍−上高地。29日上高地−島々−軽井沢。 [植物研究雑誌63(3):77(1988)]
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8月01日 軽井沢押出岩。7日碓水渓谷。8日信州長野−戸隠中社。9日黒姫登山。10日戸隠表山廻り−軽井沢。15−16日軽井沢浅間山。20日離山。21日松原湖。22日妙義金洞山。 9月03日 秩父長瀞。4日武甲山。23日下野日光へ出発。24日白根山。25日日光見物。 10月16日 武州高尾山。17日軽井沢碓水峠。18日愛宕山方面。 11月03日 逗子二子山一周。12日逗子七曲方面。13日神武寺山方面。26日逗子桜山方面。27日桜山、小坪方面。 12月11日 逗子法性寺、桜山方面。 昭和3年(1928年)17歳
1月16日 川村先生から拝借した植物総覧で調べた。 1月18日 植物総覧を写した。(注:以後数日続く) 1月03日 腊葉目録ができた。1月中に整理したものまでで総計88科470種であった。 4月12日 学習院高等料第1学年理科甲類。 5月11日 学校を終り、理学会をこしらへるので、皆と集り幹事を選挙の結果、第1回幹事に当選した。 5月27日 午前6時起床、8時半ホテルを出発…2時別荘へ戻り裏へ採集に行き、珍菌をとった。(注:軽井沢) 5月28日 学校から帰宅後菌を写生し整理した。夕食後も同じ。 6月06日 学校を終り直ちに川村先生の所へ行った。軽井沢で採集した2種の菌はVerpa, Gyromitraなる2属のもので、我国最初の発見であることが分り実にうれしかった。6時半帰宅、夕食後菌を整理した。 10月05日 理学会雑誌第一号ができた。 10月24日 安斎商店から顕微鏡をもち来り、決定。ツアイスDSB型543.75円。 10月28日 学校より帰宅後、植物目録を作る。(注:以下連日) 12月27日 8時半起床9時より樺太植物整理。(注:これまでの続き)午後5時樺太植物整理一先づ完了。総計70料210属318種6変種3変形。
年末所感 今年こそ我が植物界に第一歩を印した年なり。5月27日に採集せる菌類2種は未だ我国に産するを知られざりし2新属のものと判明、我国のフロラに2属を加へたのは喜びにたえず。更に11月に至って我国に於ける新発見2種を発見せり。尚今後研究の結果は数種の新種を加へるに至るべし。 顧みて我が腊葉集をみるに、その数は二千余に達し1年の努力はその甲斐ありき。殊に樺太・北海道に於ける採集には全力を注ぎ、樺太フロラに数種を加えることをえたり。腊葉中には得難き貴重なるもの多し。来年を期し更にさく葉集を充実せしめんとす。又学校に於て主席を占めたことを付記し、今後益々奮闘努力せんことを誓う。 [植物研究雑誌63(3):85(1988)]
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昭和3年(1928)植物採集旅行表
1月05日 逗子桜山方面。7日逗子廓方面。 2月05日 逗子桜山。神武寺方面。20日西浦、芦谷方面。 3月19日 新宮附近。20日湯ノ峰附近。22日那智山。23日烏帽子山。29日伊東附近。30日伊東付近 4月01日 蓮台寺附近。2日天城山脈。30日葉山。 5月05日 軽井沢、高原。6日愛宕山、高原。19日小瀬方面。27日軽井沢、小瀬、高原。 6月03日 逗子神武寺、法勝寺。10日鎌倉方面。24日逗子神武寺山。 7月11日 赤城登山。12日黒檜山、沼田行。14日谷川岳、清水峠。20日奈川渡−上高地。22日徳本峠。25日より軽井沢。28日碓氷峠。31日まで。 8月03日 出発。5日北海道札幌植物園。7日支笏湖畔。8日樽前山。9日登別温泉。11日旭川。12日樺太大泊。13日鈴谷山。14日豊真山道。15日野田、歯母舞、登富津、荒鯉。16日野田。17日貝塚、大泊。18日稚内。19日大沼、函館。21日帰京。
9月22日 逗子桜山。 10月10日 上州古馬牧。14日逗子神武寺。19日上州湯原。20日湯原、スキー場。22日湯原。24日顕微鏡を買う。(注:特記してある) 11月03日 葉山、一色南方。4日高雄山。16日逗子桜山。 昭和5年(1930)19歳
1月04日 夕食後樺太の菅原繁蔵氏来り、種々話をした。 2月11日 11時頃平井が目黒でカゴタケを採ってきたので写真をとり、昼食後写生し調べた。 4月16日 学校を終り直ちに植物園へ中井先生を訪れ、又本田正次先生に御紹介下さった。4時半帰宅後直ちに川村先生の所へ行き、7時過帰宅、夕食後、腊葉整理。(注:中井博士との交流は前年から始まったようである。) [植物研究雑誌63(3):101(1988)]
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5月10日 学校から帰りヲセソウの記載を書いた。(注:前年至仏山で採集) 5月16日 学校から帰宅後、4時出発。同25分発列車で平井と伊豆湯ヶ島に向ふ。今度の旅行は、来月2日陛下天城八丁池へ行幸のためその下調べに来てくれとの事で行くことにした。午後8時40分修善寺着。直ちに自動車で湯ヶ島落合楼に行き投宿。 5月17日 午前6時起床、8時出発。横田、内田氏等と自動車で杉本に至り、それより植物を教示しつつ八丁池に至り、昼食。隧道入口へ戻り、徒歩にて浄蓮滝に至り採集。6時半に宿に戻る。夕食後植物名を教え、11時就床。 10月01日 学校より帰宅後、 4時より中目黒へ行き、川村先生を待ち、共に別荘に行き、 カゴタケを見て7時帰宅。 10月04日 学校を終り直ちに品川を経て逗子に向ふ。1時20分着。荒井校長等と会ひ、逗子小学校教員の植物実地指導の講師として、神武寺裏口石切場に至り、38名の教員に指導しつつ登り、寺の所より本道を下り、沼間分教場に4時半着。それより菌に関する講演をし、種々質問を受け、6時半別荘に戻る。 10月16日 東京日日の朝刊に僕がカゴタケを発見した事についての記事が大きく出た。 11月21日 放課後3時より、理学会第9回例会に出席、菌に関する講演をした。 昭和5年(1930)植物採集旅行表
3月30日 紀伊御船、鮒田。31日瀞八丁。 4月01日 瀞八丁。2日新宮。27日伊豆天城、八丁池。28日浄蓮滝、猫越。 5月17日 伊豆天城、八丁池。31日軽井沢。 6月01日 軽井沢、小瀬。22日相州武山、大楠山。 7月12日 軽井沢川越石川谷。13日離山。14日川越石川谷。15日碓氷峠。25日妙義白雲山。 9月28日 上州水上。 10月04日 伊豆神武寺山。5日伊豆神武寺山、桜山。19日日光中善寺。20日中善寺。 [植物研究雑誌63(3):111(1988)]
=休業日
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