A note on lacquer tree of Bhutan
コロンボ計画の農業援助の専門家として、ブータンに滞在中の西岡京治氏より送られた、ブータン産ウルシの標本を見る機会を与えられた。おし葉標本は1965年12月、西都ブータンのTashigang地区Paumi村で採集された栽培品で、葉および完熟した果実をつけており、ハゼノキに酷似しているが、常緑性であることと、小葉の形、それに産地の近いことなどから、アンナンウルシ(Rhus succedanea L. var. dumoutieri(Pierre)Kudo et Matsuura)と判断された。Rhus succedaneaは中国からヒマラヤにかけて自生するとされているが、日本のハゼノキにくらべて小葉数が少なくなる傾向がある。またヒマラヤ産のものは果穂がまばらで、小梗が太く、左右よりも上下に扁圧されていて、柱頭部の突出がなく、var. sphaerocarpa Hook. f. というのに当る。更にPlantae Wilsonianaeの記事によると、中国のRhus succedaneaからは漆を産しない、日本でのように木ろうを採ることもしていない。胡先驌氏の経済植物手冊によっても、Rhus succedaneaから漆をとることは書かれていない。
ブータンのアンナンウルシは、インドシナから山地のウルシ利用民族を通じて持込まれたものだろう。西岡氏によると、ブータンの人は野生のウルシをrisye(山ウルシの意)、yusye(村ウルシの意)と呼んで区別しているが、同氏には見わけがつかないという。野生品がアンナンウルシの逸出したものか、本来自生の母種であるか、或は別物であるかはこれだけでは判斬できない。また本物のウルシ(Rhus verniciflua)が利用されているかについても言及されておらず、今後の知見に期待したい。
西岡氏の報告はブータンの栽培ウルシについて、この他にも興味のあることがらを含んでいるので書きとめておく。ウルシ樹の仕立て方は西ブータンに於てはブッシュ形である。つまり関東地方のコナラやクヌギの薪炭林のように、ゴツゴツした根株から枝がたくさん出ているという形だろう(Fig. 1-a)。株をふやすには、採漆のために枝を伐採した残りの根株を、鍬やナイフで分割して、いわば株分けを行なう(Fig. 1-d)。この分け方は日本でウルシをふやす時行なわれる根分けと似ているようだ。
漆の採集は9~10月に行なわれる。葉が黄変した頃、株から出た枝を基部から切りとる。枝の太さは送られたサンプルでは直径3. 5cm、6~7年生のものである。枝の全長は2~2. 5mあり、葉を払ってからこれを2~3本に切り分わける。これにjhyam(Fig. 2)という特殊な形をした刃物で13~16cmおきに幅1~2cmの環状の傷をつける。細い枝に対しては単になた目をかるく入れておく。そしてしみ出る漆を指先でこすりとり、ガラスまたは竹の容器に集め、表面に水をはって保存する。
以上は西ブータンでの事情であるが、中央ブータン、東ブータンではウルシ樹は高木形に仕立てられ、繁殖は果実によっている。また漆の採集は葉および果実から行われている。この地域ではウルシ樹の栽培は少なく、採集量もわずかであるという。葉や果実からどのようにして採漆するのか、また木を生かしたままで幹に傷をつけて採漆するやり方があるか杏かなどについては記されていない。葉から採漆するということは私には予想外であるが、西岡氏の送られた漆のサンプルの中に葉から採集したとされるものがあるし、現地の人も葉からの漆の方が、幹より採った漆より質がおちるとして区別しているそうである。
ブータンにおけるウルシの栽培は小規模であり、専門の木地屋の家でも10~20株というところである。先に書いたように採漆に6~7年生のものを利用するとすれば、これではとても年間の使用量をまかない切れないと考えられるが、何か他から供給されるのであろうか。ブータンにおいては漆器は広く一般に行きわたっており、誰でも漆塗りの椀をふところに持歩いていて、飲食の際これをとり出して用いるということである。
興味深い報告をもたらされた西岡氏に敬意を表する。また資料を提供された海外技術協力事業団に感謝する。標本は東大植物学教室に保存する。
[植物研究雑誌41(4):127-128(1996)]
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