ここに示したのは、ある植物画展の募集ポスターの一部分(やや縮小)です。前年度の優秀作品から選んだとのことで、カラーの見事な出来ばえです。けれども私はこれを見たとき、何だか違和感がありました。どうしてそう感じたのかを考えてみたら、次の3点でした。
- ツタの吸盤つき巻き髭は、2節続けて出て1節休むという出方をするのに、この画にはそういう規則性がありません。こういう出方はブドウ属も同様で、エビズルとノブドウの違いを話すとき、よく引き合いに出される特徴です。
- 吸盤つき巻き髭は、1節から1本しか出ないのに、この画では2本描かれているところがあります。
- 茎がこのくらいの太さになれば、たくさん出るであろう付着根が、描かれていません。
植物画の趣旨は、科学的に正確であることが第一義のはずです。描いた人も指導した人も審査した人もポスターに採用した人も、見落としてしまったのは残念です。
上の3つのうち付着根については、近所の塀に這っていたツタをあらためて観察したところ。この画くらいの太さでも、付着根が出ないものがあることを知りました。私の勉強不足だったようです。
重箱の隅をつつくようなことをするな、と言う人もあるでしょうが、たぶん「模範的」なものとして公表されてしまったものですから、観察の着目点の材料として適当な反面教師だと思いました。
ここ迄書いて牧野日本植物図鑑 (1948年) のツタの図を見たら、若枝の先の部分には節ごとに巻き髭があり、下の部分の節には巻き髭が描かれていませんでした。寺崎留吉:日本植物図譜 (1933年) では、巻き髭は節ごとについていました。上原敬二:樹木大図説 (1961年) では、巻き髭の出る節があったりなかったりで、規則性を意識して描かれてはいないようです。北村・村田:原色日本植物図鑑 (1971年) では、1に述べたような巻き髭の出方が描かれていました。「ありのままを描く」ということは、そうたやすいことではないと、改めて感じました。写真ですと「ありのまま」を記録しますが、それはカメラが記録するのであって人間がやるわけではありませんから、用心しないと知識としては脱け落ちてしまいます。こういう過ちは、自分でもどこで犯しているかわかりません。「もしかすると、上に述べたことには普遍性がないのかな」と心配になりました。どなたか確かめてください。「こんなことは既にわかっているはずだから、発表する意義はない」と思わないで、同じ現象でもソースが違えば、既発表のものと引き比べながら、繰り返し発表するのがよいと思います。それが、本に書いてあることや他人の言っていることより自分の目で見たことを大事にするという、「野草」の基本的態度だと思います。「俺の見たことはアイツの見たことと同じだ」というような報文は、オリジナル論文最優先の学術誌ではお払い箱ですから、同好会誌の出番です。そうしているうちに、ローカルな変異や時期的な違いが、明らかになるかも知れません。
神戸市の白岩卓巳氏が、「水生シダは生きる」という 250頁もの本を自費出版しています。サンショウモ、オオアカウキクサ、デンジソウ、ミズニラ、ミズワラビについて、永年にわたる研究結果をまとめたもので、自分の目による観察がいかに大事かを教えてくれます。
[野草67(502):98-99(2000):図は割愛した]
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