"Bir Nighantu", a Nepalese herbal encyclopedia
Nepalの主都Kathmanduに国立のアユルべーダ薬製造所、Singha Darbar Baidyakhanaがある。表題のBir Nighantuはそこに保存されている手描きの彩色図鑑で、別名Chandra Nighantuとも呼ばれている。私はこの本の存在を、1970年大阪大学ヒマラヤ登山隊々長の水野祥太郎博士の御教示により知ることができた。この本は30×40cmほどの大きさで10巻あり、植物篇8巻、動物篇1巻、鉱物篇1巻より成り、図と解説の合計は2,000頁に余る大作である。図は厚いネパール紙に顔料を用いて描かれている。植物は1頁1種類で約750図あり、いずれも1個体の全形をとらえ、花、果実、葉、幹はもちろんのこと、地下部もすべて描かれており、その上生育地の状況も背景に描かれている。描写は非常に写実的で、図を一見しただけで種の同定ができるものも少なくない。とり上げられた植物は薬用植物、観賞植物、野菜類が主であるが、ウキクサやカワノリまで入っており、その多様さに驚かされる。地域的には低地から中高度のものが多く、高山帯の植物はやや少ない。動物は約90図あり、1頁に数種類が一しょに描かれている。特に鳥類に良い図が多い。鉱物篇には図が無い。
解説は各々の図の裏面にサンスクリットとネパール語で書かれている。その内容は、その植物が出てくる古典名をあげ、主として薬用としての性状、用途、適用症状などが引用してある。ネパール語の部にはこれに加えて、植物の土名が列記してあり、ネパール名、ネワール名、インド各部族の言語による呼名の他、ペルシャ名、アラビア名、チベット名、英名、学名まで、拾えるものは拾ってある。最後にネパール内での産地名も記されている。
この本の沿革はそう古いものではなく、19世紀末期の宰相Bir Shumsher Ranaの命によってPandit Ghana Nath Devkotaが編さんにかかり、20世紀の初頭には一部は出来上がっていたらしい。本書がBir Nighantuと呼ばれるのは、この宰相の名をとったものである。またChandra Nighantuとも呼ばれるわけは、Birの次の宰相Chandra Shumsher Ranaの時代(1908年)にCalcutta大学のProf. Hari Prasad等が研究のために一部をインドヘ持参し、これを製本した時にChandra Nighantuと名付けたためとされている。この製本の際に裁断を誤ったため、図の一部が切り捨てられてしまった。Chandra Shumsherの後援の下にPandit G. N. Devkotaはその息子Koshanath Devkotaと共に編さんを続け、1944年に死ぬまでに現在の形に仕上げたものである。この本はまだ未完成で、解説だけあって図は空白になっているものもいくつかあり、特に植物篇の第8巻と動物篇にはそれが多い。なおNighantuとは百科辞典というような意味である。
Nepalのように永く鎖国を続け、近代科学の移入が遅れた国で、このような植物学的価値の高い図鑑の編さんが営々と続けられていたことは驚嘆の他はない。図は前述のように正確なものが多く、当てられている学名も大むね妥当と思われる。この本はNepalの文化水準の高さを世界に誇るに足る文献であるばかりでなく、Nepal植物やアユルべーダ医学の研究に有用であろう。残念なことは梵字で書かれているために外国人には利用し難いこと、図と解説が入れ違っているものが所々見出されること、世界に唯一冊しかない本書の保存にあまり注意が払われていないことである。図の入れ違いを正し、学名を校訂した上で英訳出版されれば、世界的に貴重な文献となるだろう。以下にネワール語解説の英訳を示しておく。訳は千葉大学医学部のR. Shrestha氏によるものである。
後記 本文発表当時は記事はサンスクリット語とネワール語と思っていたが、その後ネワール語ではなくネパール語であることが判明したので、その部分を訂正した。
Page 761. No. 352. Jatamansi
Reference Note Raj Nighantu : Jatamasi has sweet smell. It is bitter, pungent and cool. It cures phlegm, heartburning, bile and vomiting. Kaiya Nighantu : It is bitter. It gives strength. It cures poisoning, boil caused by snakepoison, blood diseases, leprosy etc. Vernacular Names
Nepali : Jatamasi Hindi : Jatamamsi English : Nardu, Numardu, Spicnard Gujarati : Walachhada Latin : Nardostachys jatamansi Arabic : Suwalutteewa
Newari : Jatamasi Marathi : Jatamasi Bengali : Jatamansi Karnati : Jatamansi Persian : Suwoola It is found everywhere in the Himalayas and Sangje Mountain.
Page 504. No. 237. Kuchila
Reference Note Raj Nighantu : Kuchila is a bit hot and bitter. It cures leprosy, stomachache, blood diseases, rheum, budding in marrow, wound etc. Kaiya Nighantu : It is cool and light. It cures Constipation, boil by soaking the fluid and bile. Madan Nighantu : Kuchila is as good as 'Tedu.' It makes dry and cool. Dhanwa Nighantu : It soothes. It cures pain of legs. Vernacular Names
Nepali : Kuchila Hindi : Kuchala, Makataindua Gujarati : Nerkochala, Nerakchola Bengali : Kuchilei Tailing : Munsthiginza Persian : Ifanki
Newari : Kuchila Marathi : Kazara English : Nuxvomica, Pine nuts Karnati : Kanjiwar Latin : Strychnos nux-vomica Arabic : Katilulkalkfaluzmahi It is found in Chunkot Ghat Kyamunetar and villages.
注)本書掲載にあたりビル・ニガントゥの解説部分の図は割愛し、図版の部分(灘波恒雄撮影、アボック社所蔵)を掲載した。また、原文Résuméは割愛した。
[植物研究雑誌46(12):374-377(1971)]
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